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桜の樹の下には

「『桜の樹の下には屍体が埋まっている』、なんていうけれどね」 なんて、声に出してみる。 独り言? いいや、違う。 僕が何かを呟けば、聞いてくれる人物がいることを僕は知っている。それを信じて疑っていない。 だから、今日もきっと彼が聞いててくれ...
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タウ・プピスの少年少女

ザァ…… 雨。雨だ。 窓を眺めるまでもなく、雨だ。 天井を仰ぐ。 今夜は、星は見えないだろうか……。 そして、雨の日は。 あいつが嫌いな日だ。  ***  ガヤガヤ たくさんの人間が声を発するあまり、人の声として認識できない音と、その合間を...
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私がクランと呼ばれていた日

「クラン様」 そう、声を掛けられて、一瞬、自分が呼ばれているのだとということに気づけなかった。「はい……。なんでしょうか」 と答えつつも、どうしても自分の名であるという認識が持てなかった。 それもそのはず。 それは、私の名ではなく、私の主人...
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天青

手を伸ばす先なんてどうでもよかったんだけどな。と彼は笑った。 かつての凄惨な日々をまるで忘れてしまったように清々しい笑顔だった。 「そうか……」  自分とそっくりな姿をした彼に俺から返せる言葉などなかった。「お前にそういう顔をされると腹立つ...
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息をすること

ぜぇぜぇと自分の口から鳴る音に目が覚めた。 目が覚めて、息苦しさに気付く。 息をする暇もなく、げほげほっと咳が漏れた。 最悪だ。 苦しいともがきながら思う。 こんなつもりじゃなかった。 そう思う思考すら掻き消すように、げほっげほっと大きく体...
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小さな賢人の裏切り

世界防衛機構エルピスには禁書と呼ばれる蔵書も多く保存されている。 基本的には閲覧不可、持ち出し禁止の書物だ。 事情はいろいろある。 たとえば、宗教的、イデオロギー的に問題があるとされているもの、人権を無視した禁術近い技術が記されたものなどだ...
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あんたの隣にいたくて

「僕はこの家を出ようと思う」「え……?」 そんな言葉を突き付けられたのは本当に唐突なことだった。 いつも通り、何の変哲もない夕食の席でのことだった。「な、んて?」 自分の手からフォークが落ちて、カンと音を立てる。 そこまで自分が驚いたことに...
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エルピス七不思議

「郵便配達人さんは、エルピスの七不思議って知ってますか」 いつもの御茶会を始めようとお茶を差し出したところ、由紀さんが唐突にそんなことを言い出した。「はい? 今なんと言いました?」 聞きなれない言葉に僕は目を丸くした。 え、なんて言いました...
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消えたい人魚の独白

「死にたい」 ポツリと呟いて、苦しい……と胸を抑える。 呟いたところで無駄だと、分かって呟いてしまったことが、より一層苦しかった。 真っ白な空間に、投げ出された足を眺める。 ガリガリに痩せ細った足。栄養などとは無縁の生活を送った爪は脆く欠け...
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僕の小さなご主人様

「子供が生まれたんだよ」 赤い髪を左肩に流すように結んだ男の人、僕の親戚筋の男で、今は主人と言っていいその人は内緒話でもするような声音で僕にそう言った。「こ、ども」 齢10の僕は、その言葉を噛みしめる。 自分には8つほど年が離れた弟がいるの...