=第一話「私と彼女が繋がるその日まで」= date unknown―モノローグ00―
世界とは何か―――――――――
〝それは、とても不浄なもの〟
では、地球とは何か―――――――――――
〝宇宙に浮かぶ青い星 美しくも見えるが、それは外見だけのもの 中身は薄汚れた穢れた星〟
私にとって、美しい世界とは何か――――――――――
〝誰もが幸せに生き、いがみ合うことも、裏切り、傷つくことも無い世界〟
それが、私の最も望むもの。けれど、彼女は私に相反し、こう答えた。
『世界は、洗浄無垢で美しいわ。だって地球は宇宙に浮かぶ青い星。ほかの星には無いものがたくさんあるもの。それに、ここにはたくさんの人間がいる。たくさんの意思があって、それが認められるのよ。とても、幸せなことだと思わない?』と。
なぜ?
私は、夢の中で私の前に立った、私と同じ容姿の彼女に問う。
『……なぜ。貴女は、どうして私にそんなこと訊くの?』
彼女は、いかにも不思議なものを見るかのように私に目を向け、そう告げた。
小首をかしげる彼女。その様に私は吐き気を催す。
私そのもののような……彼女の顔は気色悪いまで美しい表情を浮かべていた。
私の目の前で。
『なぜ、あなたは私と同じじゃないの!?』
私の無機質な声が空間に虚しく響く。
しかし、彼女は私の問いに答える代わりに曖昧な微笑を浮かべ、その濁りの無い瞳で哀れむようにこちらを見ていた。
その表情に私の怒りは閾値を越える。
『あなたは私でしょうっ! あなたの前に立っているのは誰……?
あなたと全く同じ顔をしてる私よ。
顔だって、声だって全部同じ。なのに、どうして、あなたは私と同じ考えじゃないのよ!』
叫んで
叫んで
叫んで
私の叫びは無意味に虚空を劈いた。
なぜ。
どんなに叫んでも彼女の表情は何一つ変わらない。
責めているのは私のはず。
けれども、なぜか私の方が責められているようだった。
『何を言っているの?……貴女は私ではないわ。』
ただひたすらに美しく無垢な微笑を崩すことなく吐き出された言葉は、無情。
その言葉に血の気が引くような気がした。
彼女は私なのに……。
私が悔しさに唇を噛むその頃には、
私に興味をなくしたように背を向け、すぅと彼女は姿を消していた。
それを眺め、大きくため息をつく。
きっと、あの子は私を嘲笑っているのだろう。
あの子は信じようとしていない。私が自分と同じ存在であることを。
……まぁ、それも道理か。
私は彼女と同じもの。彼女の中に存在する愚かなまで醜い人格。
そして、彼女は綺麗な私……。
私は、そんな彼女を憎んだ。
いつも、私の言葉を否定し、見向きもしない。
私を自分だと信じようとしない。
そう、いつだって、自分はきれいなんだと信じきって、偉そうに私を見ては、私を記憶の隅に押し込めた。
だから、私は彼女が嫌いで仕方なかった。
私は綺麗な私彼女に閉じ込められ、永い時を過ごした。
いったい、どれほどの時間が経ったのだろう。
とても永い時を過ごしたような気がする。
月日は流れ、ある日、ふと気づくと彼女という器は無くなり、私は一人の人間となっていた。
私は、その体を見つめる。
灰色の癖のない胸にかかる長さのストレートな二つ結びの髪。
華奢な四肢。日本人のような薄い顔。ただ、その顔に私は歪を見つけた。
真紅に染まった切れ長な瞳が鏡の奥で私を見つめている。
それは、まるで獣のように煌々と輝いていた。
赤と青が美しく混ぜ合わされたスカートとスカーフが風になびかれ揺れた。その瞳を奪うようなセーラ服で身を包み、私は笑みを浮かべる。
一つの人格が一人の人間となったこの瞬間、私は歓喜に身を震わせた。
これが、私―――
人間となった私はその紅の目で世界を見下ろした。
そこは、歪んでしまった面白可笑しい世界。
現実とはかけ離れた狂いきった世界だった。
ここに、彼女はいるのだろうか。私を苛め続けたあの憎い私彼女は……。
私はただ微笑む。
口元を歪なまでに歪めて。
彼女と私が繋がるその日まで……。
私は、一生彼女を
憎むでしょう。
恨むでしょう。
そして、私が私として生きるために、
彼女という存在をかき消すために、
綺麗な皮をかぶったあの化け物彼女を消すまで追いかけ続ける。
そうでもしなければ、私はあの気色悪いまで綺麗で無垢な彼女を忘れ去ることはできないのだから―――
夢は現実に、
現実は夢になって
狂いきったこの世界で私はその日を夢に見る―――
さぁ、始めましょう滑稽なお話を―――
ねぇ
あなたは、自分自身に打ち勝つことができる――――――?
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