毒の街~王の暴挙の先に~

「死者は、500人を超えたようです」
 家臣の一人が、重々しく、俺に伝えてくる。
「王!! このまま、エスタリスクを見捨てる気ですか!!」
 エスタリスク
 ……毒の街か

 ため息ばかりが、協議室を占めていく

 たかが、庶民数百人が死んだところで、俺にはそんなこと関係ないというのに
 まったく、やかましい家臣らだ
「王、わかってらっしゃいますか!? 事の重要さを!!」
「このままだと、我が国の農業は地に堕ちてします!!」
「早急に何か対策をしなければ、あの街は死に絶えてしまいます!!」
 あっちからもこっちからも、そんなことばかりだ
 街一つになぜここまで騒ぐのか、俺には分からない
 所詮、俺に影響はないのだから
「勝手にしろ。第一、そういうのを何とかするのが、貴様ら大臣の仕事だろうが。
 俺に、いちいち報告せず、自分たちで何とかする能は貴様らに無いのか!!」
 俺の怒鳴り声に、一瞬で、家臣らは黙り込む。
 ちょっと言っただけで、これだ。
 
 ……もう、こんな日々に俺は飽きていたんだ

 国が、町が、大変だ
 早急に対処しろ
 他国との交渉を成功させろ
 政略結婚しろ

 何もかもが、馬鹿らしい

 どうして、生きたいように生きてはだめなんだ
 どうして、他人のために人形のように動かなくてはならない?
 何もかもが、理解できなかった。
「俺は、体調が悪いから休む。あとは、貴様らが何とかしろ。
 おい、エイン。帰るぞ。」
 近くで控えていた従者のエインを呼びつけると、俺はそのまま協議室をあとにしようとした。
「王!! お待ちください! 王!!!」
 そしたら、一人の大臣が、喚き始めた。
 思えば、奴はエスタリスク出身だったか……。きっと、故郷が死んでいくのが悲しいのだろう。

「王、よろしいのですか?」
 エインが、長い前髪をたらしながら、俺に問いかけてくる。
「放っておけ。
 どうせ、王宮に直接関係してくることはないだろ」

 俺は、恐ろしく馬鹿だったのかもしれない

 エスタリスクで起きている事件が、自分に全く関係のないものだと思っていたこと自体、愚かだった。
 あの街で起きている事件の発端が、俺の些細な一言だったなんて……
 あの時は、考えても見なかったんだ。

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