序章 田んぼが何色にも染まっていなかったとき

 おかしいな……。何がくだらなくて私は立っているんだろう。何が見たくてここにいるんだろう。

 歓喜に満ちた声や、うれしさのあまり泣き出す少年少女を、私はただぼやける視界の中から見つめていた。
 いったい、私は何を間違ったのだろう。
 もう……、それすらもわからなくなっていた。
 泣きたいような、笑いたいような虚しい気持ちだけが、自分の内で暴れていた。

 119502

 祈るようなこの数字は、今や私の手をすり抜け、騒がしい人ごみの中へと飛んで行ってしまった。きっと、私がその数字を見ることは――――

 もう無い。

 あぁ、落ちたんだ。
 私は泣くわけでも、笑うわけでもなく、ただありのままの現実を見るしかなかった。
 私の数字は、この膨大な掲示板の数字の中にはなかったのだ。
 その事実に、涙はこぼれない。
 けれど、胸を刺すような痛みが私の心を締め付ける。

 終わった

 もう、何もかも終わってしまった。
 やり直しのきかない、この重大な出来事にここまでの失態を犯したのだ。
 人生が終わったも同然だとおもえて、私は、心情とは裏腹の明るすぎる人ごみに背を向けた。
 
「もう、いい。どうなっちゃってもいいや」
 つぶやく私に、蕾の桜が嘲笑うように揺れていた。

 3月14日午後1時

 私のどうしようもない中学校生活は、第一志望校不合格という最大の汚点を残し、終焉を迎えた。
 この馬鹿みたいな日を、私はいつまでも忘れることはできないだろうな――と思っていた。

 そう、やむを得ず行ったはずの私立鷹の台高校で、同じく馬鹿みたいなあいつと出会うまでは――――――

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